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文体練習について

 このブログは題名通り、文体練習のブログです。
いくつかの作品を掲載していくことになると思いますが、現在構想しているのは「主題と変奏(仮題)」という純文学作品と「畑永真冬の冒険(仮題)」という青春ミステリ作品の二つです。
 現時点ではそれぞれの作品をそれぞれカテゴライズして随時発表していく予定です。
 小説を書くのは30年ぶりくらいなのですっかり勘が鈍っていますが、感想や気になることなどありましたらコメントをよろしくお願いいたします。
↓INDEXから入ると作品の冒頭から並びます。

INDEX 
「主題と変奏」
「畑永真冬の冒険」
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畑永真冬の冒険 第2章(1)

 翌日、土曜日。わたしが八時半くらいに起きたら、すでに美蘭ちゃんは出かけたあとだった。お父さんからお母さんに何か連絡が行っているかもと思ってちょっとビクビクものだったが、お母さんは何も知らないようだった。食事をそそくさと済ませると、スカートとトレーナーに着替え、お母さんには図書館に勉強しに行くと言って、ダウンジャケットを羽織って九時過ぎには家を出た。

 四つ目のバス停でバスを降りて、長い坂道を登って坂本家へ向かう。一月の朝は恐ろしく寒くて、吐く息まで凍りそうだ。やっぱりジーンズ履いてくればよかったかなとか思うが、坂道を歩いているうちに体が暖まってくる。ふと、受験前なのにわたし、なにやってるんだろうな、と思ったりする。
 やっと坂本家にたどりついた。テレコのスイッチを入れ、呼び鈴を押す。
「はーい」と声がして、出てきたのは昨日は見かけなかった若い女性だ。おそらく昨日奥さんの話にあったお手伝いさんの蒲原さんだろう。「どちら様ですか?」
「畑永雅一探偵事務所の畑永真冬といいます。奥様はいらっしゃいますか?」
女性は怪訝な表情になった。そりゃそうだ。わたしみたいなガキが探偵だって言ったってにわかには信じられないだろう。しかも今日は中学校の制服じゃないから一層子どもっぽく見えるかもしれない。
 女性は一端奥に引っ込んだが、しばらくするとまた玄関まで戻ってきて、「どうぞ」というとわたしを家の中に入れてくれた。
 応接間に入ると、奥さんと、中年の男女二人がソファに座っていた。
「おはようございます」とわたしが奥さんに声をかけると、奥さんはにこやかに微笑んだ。
「おはようございます。こちらは私の息子の康夫と、嫁の祐子。」
セーターを着た、四十歳くらいに見える息子さんの康夫さんは鷹揚に頷き、康夫さんよりもだいぶ年下に見えるお嫁さんの祐子さんはにこにこ笑顔を私に向けた。
「こちらが昨日からお世話になっている畑永探偵事務所さん。お父様の代わりに来ていただいたのよ」と奥さん。「えーっと…美冬さんでしたっけ」
「真冬です。よろしくお願いします。」
「かわいい探偵さんね。」祐子さんは昨日奥さんが言ったのと同じような事を言った。
「お父さまから連絡がありましたよ」と奥さん。「自分が行けなくて申し訳ないけども、娘は優秀なので十分お役に立つでしょう、と仰っていました」
 なんだよそれ。お父さんはわたしの探偵としての能力をいつ知ったんだろう。今度訊いてみなくちゃ。
「おかあさん、探偵ってこんな小さな子なの?ほんとうにこの子に絵を探させるの?」と康夫さん。「時価三千万円の絵を、こんな小さな子に?本当に大丈夫なの?」
さすが県会議員だ。本来ならこんなガキに、とか言いそうなところをこらえたね。でもそんなに『小さい』を連発しなくてもいいでしょ。ん、三千万?一晩でえらく値上がりしたなあ。
「私も昨日はじめてお会いした時は正直そう思ったの。でも、お話してたらこの真冬さんって、なかなか探偵らしくてしっかりされているのよ。なんとなくまかせられそうな気がするの」
奥さんがそう言うので、なんとなくわたしはくすぐったくなった。一方、康夫さんは肩をすくめた。
「このまま絵が出てこなかったらお母さんの責任だよ。こんなわけのわからない少年探偵団みたいなのに頼むより、警察を…」
「警察は呼びません」
奥さんにぴしゃりと言われて、康夫さんは返す言葉もなかった。康夫さんは母親には全く逆らえないらしい。そればかりかこのやり取りで、奥さんが康夫さんを疑っているのがはっきりした。
「…じゃあ、いくつか質問をさせていただいてもいいですか」とわたし。「お手伝いさんにもお伺いしますので、呼んでもらえますか?」
 奥さんは呼び鈴を鳴らした。ドラマに出てくる昔の上流階級の家みたいだった。さっきの女性がドアのところから現れた。
「あら、真冬さんには紹介していなかったわね」と奥さん。「午前中お手伝いに来ていただいている蒲原さんです」
ジーパンにエプロン姿の蒲原さんは私に向かって小さく頷いた。よく見るとそんなに若くないかもしれない。あんまり明るい印象がない地味な感じの女性だ。
「蒲原さん、よろしくお願いします。」と私。「昨日何時ごろ帰られましたか?」
「奥様のお昼の後片付けを終えて出ましたから1時くらいです」
「昨日最後にこの部屋に入ったのはいつですか?」
「お掃除した時だから11時くらいでしょうか」
「その時には絵がなくなっていたのには気づかなかったんですね?」
「はい。額にはたきをかけましたから、その時にはありました」
うん。これは重要な証言だ。11時にはまだ絵はこの壁に架かっていたのだ。
「蒲原さんが帰るまでにだれかが訪ねてきたりという事はありませんでしたか?」
「どなたもお見えにはなりませんでした」
そうか。わたしは手帳になにか書き付ける振りをして、ミッフィーちゃんを描いた。
「康夫さんは、昨日はどちらに?」
「仕事で朝の9時から夕方まで一日オフィスに居ましたよ。」坂本さんは県会議員だが、地元で大手の工務店の経営者でもある。「家には七時ごろに帰りました」
「そうですか。わたしとは入れ違いだったんですね」
わたしは手帳の、さっき描いたミッフィーちゃんの右隣にチューリップを描いた。
「祐子さんは?」
「私も仕事で朝からいませんでした」
「何のお仕事をされているんですか?」
「総合病院で看護士の仕事をしているんですよ」
「この人ったら働きになんかでなくてもいいのに、どうしても仕事を続けたいって言いましてね」と奥さん。
 んー、そうするとやっぱり昨日は蒲原さんと奥さんしか家にいなかったということか…
「私は一日家にいましたよ。」と奥さんは、わたしが尋ねもしないのに話し出した。「お昼をいただいたあとは、私のお部屋で縫い物をしていたの。四時ごろになってお茶でも飲もうと思ってこの部屋に来て絵がないことに気がついたの」
「縫い物、ですか?」
「パッチワークをね。私のたったひとつの趣味なのよ」
「そうですか」
わたしは手帳のミッフィーちゃんの左にくまのボリスを描こうとしたのだが、ボリスの顔がどうしても思い出せなかった。
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